「メキシコ国境へ」
体調は、日に日に悪化していた。Demingを出発する明け方も、かなりの冷え込みに変わっていた。砂漠地帯特有の日中の日差しがあっても吹く風は冷たい。アスファルトの道を歩き、しばらくするとある異変に気がついた。位置情報ソフトのバグ。Demingでなにげなく更新したソフトウェアが、地図と全く連動せずにいた。つまり、位置確認が全く出来なくなっていた。数日前、コンパスを落としてしまった私には、位置確認は重要なソフトウェアであった。DemingからColumbusまでは、全くコースがないエリアが二ヶ所合計10マイルほどある。他のエリアでは、例えば、地図上10マイルでも、その倍の距離トレイルが全く見当たらない事が多々あった。水の補給が難しいこのエリアで、ロストは非常に危険である。リスク回避は慎重過ぎて問題になる事はない。私はできるだけ南下し、Columbusまで伸びているハイウェイ11を探し、道路歩きを選択することにした。ここに来て、この様な状態に陥るとは、全く想像もしていなかった。
「終わる実感がまるで無いColumbus」
途中から道路歩きをした事もあり、予定より半日以上早く、国境手前3マイルのColumbusに着く事が出来た。私はColumbusにある州立キャンプサイトにテントを張る事にした。完全に体の調子も悪く、着くなり寝袋に潜り込んだ。どのくらいの時間そうしていたかは判らない。ただ汗をかなりかいていた事と、外の空気が少し冷たくなってきたのだけは覚えているシャワーがあるのに、浴びる力さえ残っていない。そして、ここが国境手前3マイルの場所である事を頭の中で理解出来ずにいた。ただ、外から聞こえてくる言葉は、ほぼスペイン語だった事は確かな事実だった。
デザートフォックスが、私の予定に併せて急遽Columbusにきてくれた。沢山のビールと、crownの名のついた高級なウィスキーを手に。やはり、アメリカの父は暖かかった。そして、私はゴール後、彼の提案してくれた、素晴らしい休暇をアリゾナやグランドキャニオンで過ごす事になった。更にGinnyから連絡が入り、Emliyとskyが、Columbusから11マイル離れた場所にいるから、四人で一緒に最後を迎えようと。私にとって、予想していない最高のクライマックスが訪れる。
「国境へ3マイル」
全ては上手く出来ているのかもしれない。私は今回、常に起こりうる神の導きに身を委ね歩いてきた。今までの、決断は、今日この日の為にあったのかもしれない。
国境での動画です。デザートフォックスが車で迎えにくるので、予定時刻より早く歩き出す。ゆっくり歩くが、直ぐに終わりが見え始めた。ハイウェイのマイルマーカーが、２マイルに変わってからが特に早かった。１マイルに変わり、ハーフマイルに変わり、そしてメキシコとの国境が見えてきた。どこまで歩けるか判らず、進むと、ボーダーサービスの人が、「国境越えるの？」と聞いてきたので、事情を説明すると、国境を越えないで戻ってきなさい。と言われた。ボーダーサービスの人に見つめられる中、国境線ギリギリまで行き、急いで写真を撮り戻ると、入国の通路を歩かされた。多少面倒な事になったが、無事に通過し、デザートフォックスと合流した。
ものものしい中、足早に国境から戻った私は、トレイルの終わりを実感できずにいた。
デザートフォックスと共に、国境で待たずに、三人のハイカーを探しにいった。しばらくして、国境から8マイルの地点で、歩いている三人を見つけ再会した。なんだか嬉しかった！直ぐに三人とハグして、お互いを祝福した。国境ではなく、この再会が、僕にとっての最後になったのかもしれない。
今回、ご支援頂きました、コロンビア様、オリンパス様、ヤムナスカ様、フォックス・ファイヤー様、パワーバー様、誠にありがとうございます。また、日本から、差し入れを送って下さった皆様、日本から暖かい応援してくれた皆様、アメリカの父達、アメリカで出会った皆さん、そして、同じく歩いたハイカー。
全ての皆さんに、感謝してやみません。皆さんからの応援なくしては、私のこのゴールはありえませんでした。長い期間本当にありがとうございます。
本当に多くの皆さんに支えられて、この良き日を迎えられた私は、今年最高に幸せなハイカーです。しかも、今回は加藤さんのバックパックを、スタートからゴールまで背負う事ができました。いつも加藤さんに勇気付けられていた気がします。
加藤さんが、望まれていた日本に繋がった一本のロングトレイルが出来る事、これは今の私の夢です。その為にも、色々なトレイルをこれからも歩き続けながら、山形にトレイルを作る活動に力を注いで参りたいと思います。今後も、皆様のご支援・ご声援なくして、この夢の実現は叶いません。どうぞ引き続き、ご支援・ご声援頂ければと思います。何卒宜しくお願い致します。
Masa
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